海外向けのページを作ることになり、原稿を翻訳のサービスへ貼って訳文を受け取ると、文章そのものは自然なのに、製品名や社内で決めた言い回しが別の語に置き換わっていることがあります。
こうした場面で使われている技術をまとめて指す言葉がAI翻訳です。どのしくみで訳すかと同じくらい、入力したテキストが保存されるか、訓練に使われるかが判断を分けます。
この記事では、AI翻訳が何を指す言葉なのか、訳文がどう作られるのか、いま選べるモデルにどんな種類があるのか、選ぶときに何を確かめるのかをご紹介します。
AI翻訳とは、対訳のデータから学習したモデルが、文章や音声を別の言語へ変換する技術の総称です。人が辞書を引いて訳語を選ぶ代わりに、学習したモデルが原文をまとめて読んでから訳文を組み立てます。
図1:どれかが公式の呼び名というわけではない。
拡大図1:どれかが公式の呼び名というわけではない。
閉じる 出所:GMO AI検索ラボ 呼び方は1つに定まっておらず、解説記事の多くはAI翻訳と機械翻訳を並記していますが、情報通信研究機構は自動翻訳と書いています。どれかが公式の呼び名というわけでもないため、この記事ではAI翻訳と書きます。
いま主流になっているのはニューラル機械翻訳(NMT=対訳のデータから学習したモデルが、文をまとめて訳す方式)です。情報通信研究機構が運営する翻訳バンクのページは、ニューラル翻訳が自動翻訳技術の主流になっていること、そしてAIが大規模な翻訳データから必要な情報を深層学習することを書いています。
提供の形も分かれています。Googleの Cloud Translation には Basic と Advanced の2つがあります。公式ドキュメントによると、Basic は標準のNMTモデルへ手早くつなぐもので、Advanced はNMTに加えて翻訳用の大規模言語モデルまで扱えるものです。同じ提供元を選んだとしても、どちらを使うかで選べるモデルが変わってきます。
訳文の作り方は一度に切り替わったわけではなく、訳語をどう決めるかを変えながら移ってきました。読めた上位記事のうち2件は、この移り変わりをルールベース型・統計ベース型・ニューラルネットワーク型という3つの段で説明しています。
図2:訳文の自然さを左右するのは4つめの段である。
拡大図2:訳文の自然さを左右するのは4つめの段である。
閉じる 出所:GMO AI検索ラボ 上から3つは、読めた上位4件のうち2件が挙げている分け方である。提供元の公式ドキュメントに同じ並びは見当たらない。4つめだけは Google の公式ドキュメントに記述がある(2026年9月22日確認)
型 訳語の決め方 出どころ ルールベース型 文法の規則と辞書を人が用意し、その規則に沿って置き換える 上位記事2件の分類 統計ベース型 大量の対訳から、語や句の対応が現れる確からしさを計算して選ぶ 上位記事2件の分類 ニューラルネットワーク型 対訳のデータから学習したモデルが、文をまとめて訳す 上位記事2件の分類 大規模言語モデルによる翻訳 文章全体を扱うモデルを翻訳用に調整し、訳文を作る Google の公式ドキュメント
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読めた4件のうち3件は、3段目のニューラルネットワーク型で説明を終えています。ところが実際には、大規模言語モデル(LLM=大量の文章から学習し、文脈に沿って次の語を選ぶモデル)を翻訳用に調整したモデルが、すでに公式ドキュメントの表に並んでいます。訳文の自然さを左右するのはこの部分なので、使うサービスをこれから選ぶ立場にある人には、4つめまでが必要になると考えられます。
Cloud Translation – Advanced では、どのモデルを選べるのでしょうか。Googleの公式ドキュメントは、Cloud Translation – Advanced で選べるモデルを5つ並べ、それぞれに説明の1行とモデルIDを付けています。名前だけでは見当が付きにくいので、説明とモデルIDをそのまま写して並べます。
図3:同じ提供元のなかにも、速さ寄りと品質寄りが並んでいる。
拡大図3:同じ提供元のなかにも、速さ寄りと品質寄りが並んでいる。
閉じる 出所:GMO AI検索ラボ Google Cloud Translation の公式ドキュメント「アプリケーションに適した Cloud Translation – Advanced モデルを選択する」から写した。ページの最終更新は2025年12月11日である(2026年9月22日確認)
モデル 公式ドキュメントの説明 モデルID 翻訳 LLM 高品質な翻訳モデル。Gemini を活用した大規模言語モデルで、翻訳用にファインチューニングされている general/translation-llm ニューラル機械翻訳(NMT)モデル 高速な翻訳モデル。リアルタイムでレイテンシが重要なユースケースに最適 general/nmt 適応型機械翻訳モデル リアルタイムで簡易カスタマイズが可能な翻訳 LLM general/translation-llm-adaptive カスタム翻訳 LLM 特定の言語ペアにドメイン固有のトレーニング データを使用し、翻訳 LLM をファインチューニングする。プレビューの扱い translation-llm-custom/{model-id} AutoML Translation モデル 分野固有のテキスト。固有のトレーニング データを与えて、特定の言語ペアで Google の NMT モデルを分野に対応させる モデルの学習後に生成される
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読み取れるのは、速さと品質でモデルの役割を分けている点です。公式ドキュメントは翻訳LLMを次のように説明しています。
高品質な翻訳モデル – Gemini を活用した大規模言語モデル(LLM)で、翻訳用にファインチューニングされており、高速なレイテンシ(Gemini 2.0 Flash より 2 倍高速なレイテンシ)で高品質な翻訳を提供します。
出典:Google Cloud Translation 公式ドキュメント(2026年9月22日確認)(新しいタブで開く) 同じ表でNMTに当てられているのは「高速な翻訳モデル」という一行で、リアルタイムでレイテンシ(=指示を出してから結果が返るまでの遅れ)が重要な用途に向くと書かれています。ここでいうファインチューニング(=すでにあるモデルへ目的のデータを追加で学習させること)は、文章全般を扱えるモデルを翻訳という仕事のほうへ寄せる作業を指しています。
Microsoftも同じ向きで動いていると見られます。Azure AI Translator の公式ドキュメントによると、2026年6月6日のテキスト翻訳の版から、使う大規模言語モデルを選ぶ選択肢と、アダプティブ カスタム翻訳が入りました。大規模言語モデルそのものの仕組みはLLMとは何かで説明しています。
人の翻訳と比べた記述は、Google・DeepL・Microsoft の公式ドキュメントに書かれていません。書かれているのは、機械の側が人から何を受け取れるのか、つまり人が何を渡せば訳し方が変わるのかという話です。
図4:機能はどれも、訳語を決めるのは人だという前提で作られている。
拡大図4:機能はどれも、訳語を決めるのは人だという前提で作られている。
閉じる 出所:GMO AI検索ラボ 機械の側が持っているのは、訳語を固定する用語集(=訳語を固定するために登録しておく対訳の一覧)と、過去の訳文を渡して訳し方を寄せるカスタマイズの仕組みです。どちらも、どの訳語を使うかを決めるのは人だという前提で作られています。つまり社内の言い回しをそろえたい場合は、機械に選ばせるのではなく、先に決めたものを渡すことになります。
人の側に残るのは、訳語を決めること、公開してよいかを判断すること、前後の文脈から訳の向きを選ぶことの3つです。訳文が自然に読めることと、その訳が自社の文書として正しいことは別なので、確かめる段取りまで含めて組んでおくほうが安全だと考えられます。
対訳のデータを寄せて精度を上げる枠組みは、公的機関にもあります。情報通信研究機構の翻訳バンクは、多言語翻訳のデータバンクとして対訳データの提供を受け、自動翻訳の精度を上げる仕組みです。自社に溜まっている過去の訳文も、同じように使える資産になる可能性があります。
読めた上位4件のうち2件が共通して挙げているのは、細かなニュアンスが落ちること、人による確認作業が残ること、そしてセキュリティの不安の3つです。はじめの2つは訳文を読めば気づけますが、3つめは規約を開かないと見えてきません。
図5:同じ提供元でも、無料で使うか契約するかで扱いが変わる。
拡大図5:同じ提供元でも、無料で使うか契約するかで扱いが変わる。
閉じる 出所:GMO AI検索ラボ 3つめについては、提供元の個人情報保護方針を読むと具体に落ちます。DeepLは、無料版とProでテキストの扱いを節ごと分けて書いており、無料版についての記述は次のとおりです。
当社では、ニューラルネットワークと翻訳アルゴリズムの訓練および性能向上を目的として、入力済みのテキストおよびアップロード済みの文書ファイルとそれぞれの訳文やテキストの推敲内容を一定期間保存します。
出典:DeepL 個人情報保護方針(2026年9月22日確認)(新しいタブで開く) 無料版とProで何がどう違うのかを、同じ方針とデータセキュリティのページの記述から並べます。
DeepL の個人情報保護方針とデータセキュリティのページの記述を整理した。認証の行の出どころは「DeepL Pro のデータセキュリティ」である(2026年9月22日確認)
項目 DeepL翻訳(無料版) DeepL Pro 入力したテキストの保存 訓練および性能向上を目的として、一定期間保存すると書かれている 永続的には保存せず、生成と送信に必要な範囲で一時的に保存すると書かれている サービス遂行後の扱い 保存の対象に、提示した訳文と利用者が加えた修正内容も含むと書かれている 契約で合意したサービスの遂行後、テキストも訳文もすべて削除すると書かれている 個人データを含むテキスト 翻訳や推敲に使用できないと書かれている 登録している場合に限って可能と書かれている サービス向上への利用 訓練および性能向上を目的とすると書かれている 利用する間は、サービスの向上を目的に使用しないと書かれている 公開されている認証 記載なし GDPRの遵守、ISO 27001、SOC 2 Type 2 を挙げている
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同じ提供元を使っていても、無料で使うか契約して使うかで扱いが変わります。社内の文書を貼る前に、いま社員が使っているのがどちらなのかを確かめておくほうが、あとから説明を求められたときに困らずに済みます。
なお、この記事では精度の順位を書きません。各社が自社サイトに数字を出していることはありますが、どの文章をどの条件で測ったのかが公式ページに書かれておらず、同じ物差しで並べられないためです。
業務で差が出るのは訳文の自然さそのものより、その前後にある作業がどれだけ減るかという部分だと考えられます。公式ドキュメントに機能として書かれているものを、使う場面の順に挙げます。
図6:自社に溜まっている訳文が、そのまま材料になる。
拡大図6:自社に溜まっている訳文が、そのまま材料になる。
閉じる 出所:GMO AI検索ラボ 1つめは文書の翻訳で、Azure AI Translator の公式ドキュメントは、元の文書の構造と形式を保ったままバッチで翻訳すると書いています。訳したあとに体裁を組み直す作業が減るので、扱う資料の数が多いほど差が出ると考えられます。
2つめは用語集で、Googleの Cloud Translation – Advanced が持つ機能です。製品名や社内で決めた言い回しを登録しておくとその訳語が固定されるため、訳文を受け取ってから語を直して回る作業を減らせる見込みがあります。
3つめは適応型翻訳で、過去の訳文を原文と訳文の組として渡すと、訳し方がその書き方へ寄っていきます。公式ドキュメントによると、データセットを使う場合、Cloud Translation は原文と似ている参照文を5つ自動で選んで訳文を調整します。
渡すデータの要件も公式ドキュメントに書かれています。組の数は、画面から使う場合が5個から10,000個まで、APIから使う場合が5個から30,000個までです。1組あたりの文字数は合わせて512文字までで、一度に訳せる原文の言語は1つだけという制限も付いています。
4つめはWebページの扱いで、Cloud Translation は入力に含まれるHTMLタグを訳さず、タグのあいだにある文字だけを訳すため、ページのソースをそのまま渡しても体裁が崩れにくい作りになっています。AIへの指示文そのものの書き方はプロンプト設計の基本で説明しています。
候補を絞るときの項目は、精度の評判ではなく、公式ページで実際に確かめられる範囲から4つ選びました。確かめることと、それがどこに書かれているかを並べます。
図7:精度の順位は、比べた条件が公式ページに無いので使わない。
拡大図7:精度の順位は、比べた条件が公式ページに無いので使わない。
閉じる 出所:GMO AI検索ラボ 4つの項目は、Google・DeepL・Microsoft の公式ページで実際に確かめられる範囲から選んだ(2026年9月22日確認)
確かめること 何を見るか どこに書かれているか 入力したテキストの扱い 保存するか、訓練に使うか、契約の種類で変わるか 提供元の個人情報保護方針 訳し方を自社へ寄せられるか 用語集、適応型翻訳、カスタムモデルのどれが使えるか 提供元の公式ドキュメント 扱える文書の形式 書式を保ったまま訳せるか、まとめて処理できるか 提供元の公式ドキュメント 対応する言語 必要な言語が公式サポートか、試験運用版のサポートか 提供元の言語サポートのページ
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対応する言語については、一覧に段階があることを見落とさないようにします。Googleの言語サポートのページは、翻訳LLMが対応する言語を公式サポートと試験運用版のサポートの2つに分けて示しており、必要な言語がどちらに入っているかで本番に載せてよいかの判断が変わってきます。
DeepLは自社サイトで、対応する言語は100以上あると書いています。ただし対応する言語の数と、その言語の訳文が自社の用途に合うかどうかは別なので、候補に残した段階で実際の原稿を数本通してみる形になると考えられます。
AI翻訳は、対訳のデータから学習したモデルが文章を別の言語へ変換する技術です。情報通信研究機構のページによると、いま主流になっているのはニューラル翻訳で、そこへ大規模言語モデルを翻訳用に調整したモデルが加わりました。
Googleの公式ドキュメントは、この2つを1行ずつで書き分けています。NMTは高速な翻訳モデルで、リアルタイムの用途に向くと書かれています。翻訳LLMのほうは高品質な翻訳モデルで、Gemini を活用し、翻訳用にファインチューニングされていると書かれています。
入力したテキストの扱いは、提供元と契約の種類で変わります。DeepLの個人情報保護方針は、無料版のテキストを訓練と性能の向上を目的として一定期間保存するとし、Proは契約で合意したサービスの遂行後にすべて削除するとしているので、社内の文書を貼る前に確かめる項目はここになります。
訳し方を自社へ寄せる道も用意されており、用語集で訳語を固定するか、過去の訳文を5組以上渡して適応型翻訳に寄せるか、分野のデータでモデルを学習させるかの3つがあります。冒頭に挙げた、訳語を直して回る作業を減らせる見込みがあるのはこの部分です。
次に読む記事は目的によって分かれ、翻訳の土台になっているモデルを知りたい場合はLLMとは何かへ進みます。生成AI全体の位置づけを押さえたい場合は生成AIとは、AIへの指示文の書き方を知りたい場合はプロンプト設計の基本があります。
自社のページを多言語で出すところから考えたい場合は、お問い合わせが相談の窓口になります。
AI翻訳と機械翻訳は違うものですか。 同じものを指しています。解説記事の多くはAI翻訳と機械翻訳を並記し、情報通信研究機構は自動翻訳と書いています。どれかが公式の呼び名というわけでもないため、この記事ではAI翻訳と書いています。
無料のサービスを業務で使ってよいですか。 提供元の個人情報保護方針を読んでから決める形になります。DeepLの場合、無料版は訓練および性能向上を目的として入力したテキストを一定期間保存すると書かれており、個人データを含むテキストの翻訳は登録者向けのプランに限ると書かれています。
どのサービスの精度が高いですか。 この記事では順位を書いていません。各社が自社サイトに数字を出していることはありますが、どの文章をどの条件で測ったのかが公式ページに書かれておらず、同じ物差しで並べられないためです。候補を2つほどに絞り、自社の原稿を実際に通して比べる形が現実的だと考えられます。
自社の言い回しに訳文を寄せられますか。 3つの道があります。用語集に訳語を登録して固定する方法、過去の訳文を原文と訳文の組として渡す適応型翻訳、分野のデータでモデルを学習させる方法です。適応型翻訳では、組の数が5個以上、1組あたり合わせて512文字までという要件がGoogleの公式ドキュメントに書かれています。
訳文をそのまま公開してよいですか。 公開する前に人が確かめる段取りを残す形になります。訳文が自然に読めることと、その訳が自社の文書として正しいことは別です。製品名や社内で決めた言い回しは用語集で固定できますが、前後の文脈から訳の向きを選ぶ判断は人の側に残ります。